私は、この世にはインボランタリーアップグレード(通称インボラアップグレード。航空会社都合の無料の座席クラスアップグレードのこと。)をコントロールしている「イエス・インボラ」というインボラ教の神様がいると信じています。
そして、私は時に祈るのです。空港のチェックインカウンターの前で。
「神よ、この貧しき愚民にビジネスクラスを与えたまえっ!!!」
神降臨
とある日の昼下がり。私は通称修羅の国チャイナから脱出すべく北京首都国際空港に駆け込んだ。
ヤバい。予定よりも大幅な遅刻。この空港は混雑することが多く、現地の旅行代理店では「3時間前には着いているように」とアドバイスされるのが一般的だ。
しかしこの日、私が空港に着いた時には既に出発時刻まで1時間半を切っていた。だが問題ない。私が生きてきた数十年という歳月を振り返っても、「余裕」などこれっぽっちもなかった。いつだってギリギリ。そう、ギリギリじゃないとダメなんだ俺は。そういうロックな生き方をモットーとしてこれまで生きてきた。
そんな思い、すなわち自分への言い訳が頭の中で渦巻く中、第2ターミナルの出発階に到着。実は第2ターミナルを利用するのは今回が初めて。ここは完全にラビリンス。
私は目の前に広がった光景に絶望した。
なぜだ、、、なぜチェックインカウンターの前に保安検査場があるのだ!?
パニックに陥る私。だがとにかく時間がない。俺に逃げ場などもはやどこにもないのだ。進むか。それとも寿司とラーメンが待つ楽園ジャパンへの一時帰国を断念するか。その答えを冷静に考えることもせず、私は前に突っ込んだ。
ただならぬ気配を察したチャイニーズが私に道を譲る。いつもなら割り込み常習犯である連中の本能的危機察知能力はまさしく野生動物のそれであった。
そして、チェックインカウンターの並ぶゾーンへ。
時間に余裕はない。だが大丈夫だ。私には秘密兵器がある。デルタ航空とアメリカン・エキスプレスの提携クレジットカード。しかもゴールド。そう、通称「Δ雨金」と呼ばれる日本人のみが持つことを許された古の時代から伝わる宝具だ。
この日利用するのは中国東方航空(チャイナ・イースタン・エアラインズ)。デルタ航空と同じスカイチームメンバーだ。私は迷わず「SKY PRIORITY(スカイ・プライオリティー)」と書かれた案内の立つカウンターに突進した。
だがこの日は運が悪かった。なぜか上級会員用のこのカウンターよりも一般用のカウンターの方が空いている。私は迷った。本当にここに並んでいて良いものか。
だが、ここは修羅の国。常識など通用しない。過去の経験上、一般用のカウンターでチェックインした場合、例えば荷物にプライオリティータグを付けてもらえないケースが多いのだ。些細なことではあるが、私はΔ雨金を保有するのに毎年約3万円の会費を支払っている。メンタル的に譲れない何かがあるのだ。
目の前にはチャイニーズカップル。男は丸々と太っていて、ブランド物のTシャツに短パン、金のネックレス。典型的な成金スタイルだった。女は若くて美しい。大昔、ニューヨークのブロードウェーで観た「美女と野獣」をふと思い出した。もっとも、あの日見た「野獣」はそのままでも十分イケメンだったが。
その男、人目も憚らずやたらと女の胸を触る。いや、触るなんて表現は正確ではない。撫でつつ揉み、おもむろにつつく。所詮この世は金。資本主義社会における厳然たる真実を奴は俺に突きつけた。
永遠にも思える長く苦しい時間にもいつかは必ず終わりがやって来る。満足気な表情の男とクールな微笑みを崩さない女はその場を立ち去り、反宗教活動家として知られる私が敬虔になる刹那がやってきた。
険しい冒険によってボロボロになった相棒(スーツケース)を計りに載せ、ジェントルマンスマイルでパスポートを差し出す私。行き先を聞かれ、「ミングーウー(名古屋)」。
カタカタとキーボードを叩く音だけが耳に響く。
この時間は長くは続かないのが常だが、なぜかこの日はやたらと長かった。
んっ!? 怪訝そうな顔をする担当者。しばらく困った様子が続き、彼女は隣のカウンターの担当者に小さな声で話しかけた。
「どうしよう、、、空席がないんだけど、、、」
私の胸の中で、何かが小さく弾けた。
確信はない。だが、何かが、今、少し動いた。
スタッフ2人は相談の上、搭乗券を印刷し私に手渡した。
「フリーアップグレード」。私が最も好きな言葉と共に。
冷静を装い、美女たちにお礼とスマイルを。
胸の中で踊る何かを押さえ付け、私は颯爽をその場を後にした。
さて、後日どうブログの記事にしたものか、、、←今ココ
A321型機のビジネスクラス
チェックイン後には再度の保安検査。搭乗時刻が迫ってはいたが、普段利用することの多い第3ターミナルに比べて待ち時間ははるかに短かった。検査後の出国審査もほとんど待たずに通過。
このターミナルにはスカイチームラウンジが存在するのだが、時間がなく今回は断念。時計を気にしつつ搭乗ゲートへと向かった。
えっ、搭乗ゲートは地上階? 案内通りにエスカレーターで下の階に降り、私は沖止めであることを確信した。
パスポートと搭乗券のチェックを済ませてバスへ。
飛行機はどうやらかなり離れた場所で待機しているようで、なかなか到着しなかった。だが、まあいい。この日はそんな退屈であるはずの時間ですら妙に心地良く感じられた。
沖止めというのは決して悪いことばかりではない。なぜなら、こんな写真が撮れるからだ。
機材はエアバス社のA321型機。ナローボディであるA320のストレッチ型(長胴型)だ。
自分も男、デカい機材にはロマンを感じるが、ナローボディの機材からは飛行機そのものの造形美をより強く感じる。全くもって悪くはない。
タラップを踏みしめる私の足取りは軽快だった。機内に入り、搭乗券に記載の一桁の座席番号が指し示す席へ。ビジネスクラスは2-2(エコノミークラスは3-3)の配置であった。
あくまでナローボディ機。シートピッチ的には国際線仕様の大型機材におけるプレミアムエコノミークラス程度。だが、ビジネスクラスは腐ってもビジネスクラス。シートの質は明らかに下のクラスのそれとは違った。
しかも、、、隣席は芸能人ですか?と問いたくなるほどの美女。悪いことはよく重なるが、良いことも重なる場合があるらしい。
澄んだ瞳で窓の外を見つめる美女に恐縮しつつ席に着き、靴を脱いでフカフカのスリッパに履き替える。スリッパの質もスリッパが入っていた袋の質も、我らが全日本空輸(ANA)のビジネスクラスのそれに勝っていた。
一息ついた頃、ビジネスクラス担当のCAさんがやってきた。顔を見た瞬間、再び心がざわついた。
とんでもないレベルの美人。「はっ!!!」となるレベルの美人。
こんな超絶美女を中国東方航空はいったいどこから連れて来て、いったいいくらで雇っているのだろうか、、、そんなことを考えずにはいられない、私が過去出会った中で最も美しいCAさんだった。
星が瞬くかのような笑顔で挨拶をしてくれたが、眩し過ぎて内容が頭に入らなかった。
おしぼりと共に、ウェルカムドリンクとしてオレンジジュースをサーブしてくれたが、興奮のあまり味がわからなかった。
機内食
左側には美女旅客。斜め前方には微笑みを忘れない美女CA。浮ついた心のまま舞い上がる期待(機体)。
順調に高度を上げ、しばらくすると食事の時間がやってきた。
飲み物の希望に加え、食事の内容は離陸前にCAさんから3種類のうちどれにするか聞かれたが、上述の理由によりやはり詳細は頭に入らなかった。ただ、男なら肉! そう思って「ビーフ」を選んだことだけは覚えている。
テーブルの上には、CAさん同様、穢れのない真っ白なクロス。最初にナッツとビールがサーブされ、ブロガーとしてはそれすら写真に撮りたかったが、隣席の美女が気になり躊躇してしまった。
ビールはいつものプラスチック製のカップではなく、しっかりとしたグラスと共にサーブされた。グラスに注ぎ、グイッと一口。チクショー! キンッキンに冷えてやがるっ! 先日利用した中国国際航空の生温いビールとは大違いだった。
ナッツを食べ終え、ビールを1缶飲み終えた頃、ちょうどいいタイミングで食事が運ばれてきた。
ルックスは何てことのないごく普通なものであったが、エコノミークラスの食事とは雲泥の差だった。写真では伝わらないが、肉の質も味付けも絶妙で非常に美味であった。
写真は撮らなかったが、上の写真に写っているワンプレートがサーブされた後、少ししてCAさんがバスケットに入ったパンを配り始めた。3種類ほどあったが、特に美味しそうに見えたガーリックトーストをチョイス。これが温かくサクサク感の中にガーリックの旨味が詰まっていて感動的な美味しさだった。こんなものが空の上で食べられるとは、、、とにかく驚きであった。
少し量が多いくらいであったが全てきれいに平らげ、コーヒーでも貰おうかなと思っていたところ、デザートのサーブが始まった。
濃厚なチーズケーキと生クリームとの相性が良く、普段スイーツはあまり食べない私ではあったが、美味しく頂くことができた。シメのコーヒーもソーサーと共にまともなカップでサーブされ、味も先日利用した中国国際航空のショボい紙カップコーヒーとは大きく異なっていた。
搭乗早々に視覚を完全に満たされてしまったわけだが、その1時間半後には胃袋も完全にハッピーにされてしまった。
あとがき
食事の後、一息つき、今回中国東方航空という会社の便を始めて利用したわけだが、ファンになりそうだ、、、などと思いつつ機内誌を手に取った。
パラパラと眺めていると、いつの間にかCAさんがやって来て読書灯をオンに。
こんなの、、、中国人がするサービスじゃない。連中はこんな気遣いができるような民族ではない。そんな私の思い込みが砕け散った瞬間であった。機内誌の内容はそれ以降全く頭に入らなかった。
私は中国という国が好きではないし、中国の航空会社も特典航空券の空席の有無の関係で仕方なく利用しているだけで、選択肢が他にあれば絶対に選ばない。
ただ、私の脳裡には何となく、未来の姿が浮かぶ。
中国も中国の航空会社も、10年後くらいには大化けしているかもしれない。
中国の人口は日本の10倍以上。つまり、人材に関しても10倍以上の「可能性」があるのだ。色んな意味での教育レベルも今度上昇の一途を辿ることだろう。
飛行機や航空会社というものを通して、私は何か大きなものが動く様を今回見たのかもしれない。